勾配ってなに?
皆さんこんにちは、建築部玉城です。
今年の夏は台風が猛威を振るっていて何をするにもうまく進まないことが多かったかもしれませんね。
10月が近いということで暑さも和らぎこれから過ごしやすくなってくると思われます。
日差しの下はまだまだ暑い部分もあるので気温差で体調を崩さないように気を付けていきたいですね。
今回は身近にあるものの意識しないと見逃しがちな勾配について書いていきます。
排水の勾配を考えるときはここから水が流れるからどうすれば上手くいくかや、高さの調整など難しい所も多いですがちゃんとできた時の楽しさはうれしいものがあります。
建築の「勾配」ってなに?
はじめに
私たちが毎日歩く通学・通勤路にある緩やかな坂道や車椅子用のスロープ、雨の日に傘や屋根から流れる水、これらに共通して存在するものが「勾配」です。
「勾配」と聞くと道路や山道の傾斜をイメージがあると思います。
しかし実はとても身近な場所にも使用されており、屋根から始まり・浴槽の床・駐車場・排水管など、私たちの住まいのあらゆる場所に勾配が使われています。
しかもその角度はミリ単位・パーセント単位で厳密に計算されており、少しでも間違えると雨漏りや水たまりができたり、水の逆流など事故の原因になってしまいます。

勾配とは?
勾配とは簡単に言えば傾きの度合いの事を言い、水平方向に進んだ時垂直方向の高さがどれだけ変化しているかという比率で表されます。
身近な例でいえば滑り台があります。
滑る部分が急な滑り台は「勾配が急」なだらかな滑り台は「勾配が緩い」という形になります
これと考え方は同じで屋根や床、通路の傾きを数値で管理するために「勾配」という言葉が使われています。
勾配に用いられる表記は「角度(度)」だけではなく別な表し方があります。
勾配の表し方
日本の建築現場では、勾配を角度(度)ではなく、別の単位で表すのが一般的です。代表的な表し方は次の3つです。
| 表し方 | 意味 | 例 |
| 尺貫法勾配(寸勾配) | 水平10寸に対して垂直に何寸上がるかを表す、日本の伝統的な表し方 | 「4寸勾配」=水平10寸に対し垂直4寸上がる(角度では約21.8°) |
| 分数勾配 | 水平距離に対する高さの比率を分数で表す | 「4/10」「1/12(=1:12)」など |
| 角度勾配 | 傾斜そのものを度数で表す | 「21.8°」など |
寸勾配は日本で伝統的に使われてきた表現方法であり、水平距離は1尺(約30.3cm)に対し垂直距離を「寸」(1尺の10分の1、約3.03cm)単位で表します。
たとえば4寸勾配はおよそ21.8度、5寸勾配はおよそ26.6度、6寸勾配はおよそ31度に相当します。
基本的には数字が大きいほど傾斜が急になると思ってもらえば大丈夫です。
一方、スロープや道路などの勾配は「1:12」のように比率で表されます。
これは水平方向に12進んだときに垂直方向へ1上がるという意味になり、パーセント表示に直すと、1/12勾配はおよそ8.3%に相当します。
「なぜ角度(度)で統一しないの?」という疑問に対してですが、
建築業界では尺貫法勾配(寸法勾配)を使うのが主流となっています。
これは大工道具の「さしがね」が尺貫法を基準に作られている為で、現場での計算や墨出しがしやすいという実務上の理由があります。(差し金の長い部分と短い部分にそれぞれ数字を合わせるとそれが勾配として出せる為勾配の線をぱっと出すことができます)
もちろんこれが主流というだけで工事の種別により〇%勾配という表記なども使用されています。

勾配の役割と仕組み
勾配が果たす役割は大きく分けて2つあります。
①水を流すため
水は重力に従って高いところから低いところへ流れます。
屋根や床、排水管にわずかな傾きをつけることで雨水や生活排水を自然に流し特定の場所に水が溜まらないようにしています。
ポンプなどの動力を使わずに重力だけで排水できるのが勾配の大きな利点です。
②人やモノが安全に昇り降りするため
車椅子用のスロープや駐車場の車路のように段差をなくして人やモノが移動できるようにする役割もあります。
ただし傾きが急すぎると今度は転倒や事故のリスクが高くなってしまうので用途に応じた適切な角度が法律で定められています。

建築の勾配
屋根の勾配
屋根勾配は、屋根の傾きを表す最も代表的な例です。勾配が大きい順に「急勾配」「並勾配」「緩勾配」と呼び分けられ、それぞれにメリット・デメリットがあります。勾配が急なほど雨水が屋根に溜まりにくく雨漏りしにくい一方、屋根の表面積が増えるため建築コストは高くなる傾向があります。
さらに重要なのが、屋根材によって施工できる勾配の下限が決まっているという点です。金属屋根は1寸勾配以上(平葺き・横葺きの場合は3寸勾配以上)、スレート屋根は3寸勾配以上、瓦屋根は4寸勾配以上が必要とされています。つまり、傾きが緩やかすぎる屋根には瓦は使えず、逆に金属屋根であれば緩やかな勾配でも施工できる、という違いがあるのです。これは、屋根材ごとに雨水を流すために必要な角度が異なるためです。
身近な例で言えば、傘を思い浮かべてください。傘の骨の角度が浅い(開き切っていない)と、生地の隙間から雨が染み込みやすくなりますよね。屋根も同じで、勾配が緩い屋根材ほど、雨水の逆流や染み込みを防ぐ工夫(材料の重なり幅を広げるなど)が必要になります。

床・屋上の排水勾配
浴室やベランダ、屋上の床にも実は勾配がついています。
国土交通省が公開する住宅の設計図書例では床の勾配が「1/50」と表記されているケースがあります。
1/50勾配とは水平方向に50進んだときに垂直方向へ1下がるといったごくわずかな傾きです。
たとえば5m進んで10cm下がる程度の傾きで見た目にはほぼ平らにしか見えません。
それでもこの小さな傾きが「排水口に向かって水を集める」という重要な役割を担っています。
ベランダや浴室の床が完全に平らだと水たまりができてしまいカビや腐食の原因になるため目立たないところにこそ計算された勾配が隠れているのです。
また、エアコンの室内機から出るドレン配管(排水)にも勾配は欠かせません。
自分でエアコンの位置調整等で触ったとこのある方は分かると思いますが、ドレン配管は最短距離で1/100以上の下り勾配をつけ空気だまりができないように施工することが求められています。
配管工事のクレームでは勾配不足による漏水がトップの原因になっているというデータもあり、エアコンの水漏れトラブルの裏にはこうした「見えない勾配」の施工精度が原因で起こっていることが多いのです。
バリアフリースロープ
車椅子用のスロープや玄関前の傾斜路にも明確な基準があります。
建築基準法施行令第26条(階段に代わる傾斜路)では勾配を1/8以下とすることが定められています。
この1/8勾配はおよそ7度の傾きで実際には車椅子が自力で上り下りするのはかなり困難な急さです。
そこで高齢者や障害のある方の利用を想定した「バリアフリー法(建築物移動等円滑化基準)」ではより緩やかな1/12以下という基準が設けられていて車椅子を自力で操作する場合はさらに緩やかな1/15以下が望ましいとされています。
1/12勾配はおよそ4.8度で一見なだらかに見えますが車椅子で自走するにはそれでも相応の負荷がかかります。
つまり同じスロープでも法律上の最低基準(1/8)と実際に使いやすい基準(1/12〜1/15)には大きな差があるということです。
駅前や公共施設、歩道橋のスロープが思いのほか長く作られているのはこの緩やかな勾配を確保するために距離を伸ばす必要があるからなのです。

駐車場と道路の勾配
立体駐車場のスロープにも基準があります。
国土交通省の駐車場設計施工指針では車路の勾配は12%以下が望ましいとされており、普通乗用車以下でやむを得ない場合でも17%までとされています。
急すぎる車路は車の底を擦ってしまったり、発進・停止時に危険が生じたりするためこうした上限が設けられています。
私たちが歩く歩道にも実は横方向の傾き(横断勾配)がついています。
道路構造令第24条第2項に基づき、歩道には排水のためおおむね2%を標準として横断勾配を設けることとされています。
歩道を歩いていて「なんとなく車道側に傾いている気がする」と感じたことがある方もいるかもしれませんが、それは気のせいではなく雨水を排水するための設計なのです。
勾配がなかったら
勾配が無かったり極端だった場合した場合どうなるかというと
屋根の勾配が緩すぎる/ない場合:
雨水が流れ切らずに屋根材の隙間から浸入し、雨漏りの原因になります。
だからこそ屋根材ごとに最低限必要な勾配が定められています。
(金属屋根:最低2寸勾配{約10.2°}、スレート屋根:最低3.5寸{約19.3°}、瓦屋根:最低4寸{約21.8°})
床の勾配がない場合:
浴室やベランダに水たまりができ、カビの発生や防水層の劣化を早めます。
スロープの勾配が急すぎる場合:
車椅子利用者や高齢者が自力で移動できず、上ることができなかったり高齢者が上る途中で転倒事故のリスクが高まります。
駐車場の車路勾配が急すぎる場合:
坂を上る際に車の底部が接触したり、発進時に危険が生じたりします。
勾配が緩すぎる(水平に近い)場合:
排水が必要な場所では水はけが悪くなり、長期的には劣化やトラブルの原因になります。
このように、勾配は「急であればよい」「緩やかであればよい」という単純な話ではなく、用途ごとに適切な角度のバランスを取ることが重要なのです。

まとめ
・勾配とは「水平方向に対する傾きの度合い」のことで、建築では水を流す・人が安全に移動するという2つの目的のために設計されている
・角度(度)ではなく「寸勾配」や「分数勾配」といった独自の単位で表すのが一般的
・屋根勾配は屋根材ごとに必要な最低角度が決まっており、床や配管にもミリ単位の排水勾配が隠れている
・バリアフリースロープや駐車場の車路には、安全のための法的な勾配基準がある
・勾配は急すぎても緩すぎても問題が生じるため、場所や用途に応じた適切な角度の設計が欠かせない
普段の生活ではあまり意識する機会のない「勾配」ですが、日常の快適さや安全を支えている建築の重要な要素です。
家の前や駐車場を水洗いした際の水がはけていく様子や雨の日に水が流れる様子、そして歩道橋や階段にあるスロープを見かけたときに注意して見てみると面白いかもしれません。
以上、建築部玉城でした
以下参考資料













































